夜香花
 その夜、いつものように真砂の家にやって来た千代は、入るなり顔を強張らせた。
 奥にまつが座っているのだ。

「……なっ……」

 素早く短刀を抜き、緊張感なく、ちょこんと座るまつ---深成に向ける。

「曲者っ!!」

「にゃーーっ!!」

 一足飛びに深成に迫り、短刀を突き出す千代に、深成は妙な叫び声を上げて逃げ回る。
 真砂はしばらく、その様子を眺めていた。
 必死さは否めないが、千代相手だと、深成はそれなりに逃げることができるようだ。

「おのれっ……。ちょろちょろと……」

 俊敏に逃げる深成に苛つき、千代は苦無を放った。

「ひゃあぁっ」

 いきなり苦無を投げつけられ、深成は慌てて方向を変えた。
 が、その拍子に、どてんと転ぶ。

「覚悟っ」

 追いついた千代が、逆手に持った短刀を、深成の上に振り下ろす。
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