夜香花
「真砂様っ！」

　千代が、這いずって真砂の足に縋り付く。
　が、真砂は立ち上がると、千代の襟を掴んだ。
　そのまま引き摺るように入り口に引っ張ると、外に向かって容赦なく千代を蹴り出す。
　どさ、と千代が倒れる音がし、それをかき消すように、がたんと入り口の戸が閉じられた。

　深成は転がったまま、その様子をただ眺めていた。
　真砂の行動は、呆れるばかりである。

　千代が真砂に刃を向けるハメになったのは、深成が真砂の腕を盾にしたからだ。
　あの勢いでは、止めようにも止まらなかっただろう。

　そんなことぐらいわかっただろうに、真砂は容赦なく、迫る千代を殴り飛ばした。
　真砂の能力を持ってすれば、避けることも、わけなかったのではないかと思うのに、千代が吹き飛ぶほど、顔面を殴ったのだ。

「……千代は、あんたの恋人じゃないの」

　ぼそ、と言う深成に、真砂は振り返った。
　怪訝な表情で、深成を見下ろす。

「俺にそんなものはいない」

　短く言い、元の場所に座る。
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