夜香花
 ぽつりと言った深成に、真砂は、とんとんと自分の横の床を叩いた。
 訝しく思いながらも、素直に深成が真砂に近づくと、真砂はいきなり深成の腕を掴んで、自分に引き寄せた。
 そして、ぐい、と顔を近づける。

 真砂の整った顔が至近距離に近づき、深成は慌てた。
 が、深成が暴れるより早く、真砂の手が深成の顔を押さえつける。
 膝の上に、深成を仰向けに押さえつけ、真砂は深成の瞼を引っ張った。

「いたたたっ」

 真砂の行動に、思わず心の臓が跳ね上がったが、どうやら貞操の危機などというものではないようだ。
 引っ張られた瞼が、ひたすら痛い。

 やがて真砂は、手を離した。

「お前は奴隷として、あの室に売られたのさ。『わらわ』ってのは、奴隷って意味だぜ」

 ぴき、と深成が固まる。

「その証拠に、お前の瞼にゃ印が彫られている」

「ええっ」

 ぱ、と深成が己の目を覆う。
 そうやったところで、何がわかるわけでもないのだが。

「そんなっ。顔なんて今まで何度も見てきたけど、そんなの気づかなかったよっ?」
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