夜香花
 今は夜だし、灯りは小さく灯っている蝋燭しかない。
 明るくなってからだと、もうちょっとちゃんと見えるかも、と思い、深成は乗り出していた身体を戻した。

 そこで初めて、己が真砂のすぐ前にいることに気づく。
 しかも、初めに真砂の膝の上に倒されたので、ほとんど密着状態だ。

「あんたっ! ちょっとは警戒したらどうなの! こんな近くにいたら、簡単に攻撃仕掛けられちゃうんだから」

 言いながら、えいっと突き出した拳を、真砂は事も無げに受け止めた。

「お前こそ、もうちょっと周りをちゃんと見たらどうだ。てめぇの顔の前にあるのが何か、わかってんのか?」

 きょとん、とした深成の頬に、軽く小刀の刃が当てられる。

「このまま俺が力を入れればどうなるか、いくら阿呆なお前でもわかるだろう」

「……」

 ようやく深成は、真砂の言わんとしていることを理解した。
 思いきり武器を突きつけられたのに、何を自分は疑いもなく鏡代わりだと思ったりしたのか。
 この男の性格からいって、鏡代わりだけのために、刀を差し出してくれたわけないではないか。
 真砂がその気になれば、ちょっと手を動かすだけで、刃は深成の身体に沈むだろう。
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