夜香花
「下らぬ。だったら依頼を取り下げればいいだけのこと。そもそも室を殺せなど、その目的からして不可解」

 乱破は受けた命だけをこなせばいいのだ。
 余計なことは考えない。
 いくら妙な依頼と思っても、言われたことだけ遂行すれば、それでいいのだ。

 相手をするのが面倒になり、真砂は立ち上がった。

「頭領。すぐに決行するのですか?」

 慌てたような声に、真砂は振り返る。
 心底鬱陶しそうな表情で。

 その表情を見ただけで、彼の‘自称配下’は黙り込んだ。
 その目に怯えの色を見て取り、真砂は小さく鼻を鳴らして立ち去った。

 そんなびくびくしていて、いざというときに働ける気なのだろうか。
 真砂はおかしくてしょうがない。

 どいつもこいつも、自分を『頭領』と立てるわりにはびくびくと、まるで手負いの獣の相手をするような態度で接してくる。
 そんなに怖いなら、相手にしなければいいのだ。
 そもそも何故己のような若輩者が、そんなに怖いのか。

 真砂は忌々しげに、足元の石ころを蹴飛ばした。
 周りの者全てが煩わしい。
 怖いなら、近づかなければいい。

 頭領というのも、皆が勝手に決めたことだ。
 真砂に一党を率いる気はないし、なので誰に指示することもない。
 自分で考え、自分で動け。
 それぐらい出来ないでどうする。

 苛々したまま、真砂は地を蹴った。
 手近な枝に掴まると、あっという間に真砂の姿は見えなくなった。
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