夜香花
「……あのなぁ、ちょっとは状況を考えろ」

 押さえつけていた手を離し、代わりに足で塊を踏みつけた真砂が言う。

「ちゃんと考えて、今にしたんだ! あんた、何してんのっ!!」

 真砂の足の下で、深成が吠える。

「何って」

「いたいけな女の子泣かせて! 前は千代と交わってたくせに、こんな子にまで手ぇ出すなんて最低だ!」

 まさに『牙を剥く』といった表現が正しい。
 深成は真砂に踏みつけられたまま、ぎゃんぎゃんと叫んだ。
 真砂の口角が、僅かに上がる。

「それで、この娘を助けようと飛び込んできたわけか。ふふ、大したもんだ」

 そう言って着物を直すと、真砂は足を除けると同時に、深成の首根っこを掴んだ。

「そんなら続きは、お前で楽しませてもらおう」

 言いながら、真砂は深成を引き摺りつつ祠を出る。
 深成は青くなって、思いきり暴れた。
 首根っこを掴まれているだけだと思うのに、何故かいくら暴れても、真砂から逃れられない。
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