夜香花
「こ、この鬼畜っ! 一人だけじゃ飽き足らないっての」

 むきーっと暴れる深成に、真砂は眉間に皺を寄せて視線を落とした。

「何を言ってる。二連発でガキを抱くなんざ、御免被るぜ。戦でもないのに」

「戦だったら、やってるっての! ていうか、あんた、そんなこと言いながらもやってんじゃん! 無理矢理犯すなんて、何て男だ!」

「人聞きの悪いこと言うな。里の娘の初物は、里の男のものだぜ」

「泣いてたじゃないか! 嫌がってた!!」

「知ったことか。俺に当たったのが運の尽きだ」

 取り付く島もない真砂に、深成はちらりと視線を祠に投げた。
 祠の中で、娘は着物を乱したまま倒れている。
 気を失っているようだ。
 闇に浮かぶ白い足は、内股が血で汚れている。

「……ちょっとはさぁ、優しくしてやろうって気はないの」

 相変わらずずるずると引き摺られたまま、深成は目だけを動かして、真砂を見上げた。
 もっとも首根っこを掴まれているので、首もあまり回らないし、すぐ傍にいる真砂など、とても顔までは見えないのだが。

「ないね」

 素っ気なく言う真砂に、深成はため息をついた。
 こいつは本当に、優しさというものがない、と思う。
 先の行為だって、娘が泣き叫んでも、怯むどころか顔をしかめた。

 あのとき深成が飛び込まなかったら、真砂は娘を黙らすために何をしたか、考えるだけでぞっとする。
 どうせ、ろくでもないことをしたに違いない。

 千代としていたって、決して優しくはしていない。
 手荒で乱暴だ。
 それでも千代は、嬉しそうによがっているが。
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