夜香花
「ねぇ。あんたは頭領なんでしょ。そのわりに、質素な家だね。あっちのほうには、もっと立派な家もあるじゃない」

「……あっちは長老たちの家だな。そうか、お前、里の内部も探って来たわけか」

 肩越しに振り向いた真砂に、深成は、びく、と身体を強張らせる。
 深成はこの里に入り込んだよそ者でしかないのだ。
 あまりに里のことに通じていると知れば、殺されるかもしれない。

「まぁ、俺を殺しに来たんだったら、土地のことを調べ上げるのは当然か」

 固まってしまった深成だったが、意外に静かに言うと、真砂はそのまま家に入る。
 ふぅ、と息をついて、深成は入り口に手を付いた。
 心の臓が、ばくばく言っている。

 真砂を狙ってここまで来たのに、真砂の一瞥だけで心の臓を鷲掴みにされたような恐怖を感じるなんて。
 情けない、とは思うが、感じてしまう恐怖はどうしようもない。

「お前は物心がついてすぐぐらいに、細川屋敷に引き取られたんだな? でも、通いで室に仕えていたそうじゃないか。物心ついたばかりのガキが、通いで主家に仕えるなんざおかしいぜ。お前、誰かと一緒にいたんだろ?」

 部屋の中から、真砂が言う。
 深成は考えつつ、家に入った。
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