夜香花
「……お方様は、寂しい人だったのかな」

「そうじゃない。とにかくお前は、室のためではなく、その爺のために、室の傍に仕えたんだろ」

「何でよ」

 疑問符の取れない顔で、深成は真砂を睨む。

「お前は里に帰ってから、爺にいろいろ話しただろ? その日あったこととかな」

「そりゃあ……」

「それが情報源さ」

「……」

 真砂の指摘通り、深成は里に帰る道々、いろんなことを爺に話した。
 深成はただお喋りが楽しかっただけだが、その日あったことを逐一話していたら、それは確かに貴重な情報源だ。

「あそこの屋敷は、大体が女だ。主は四六時中合戦で、あまり屋敷に近寄らないし、そうすると自然、男は近づきにくくなる。不用意に近づけば、あらぬ疑いを持たれるしな。多分お前の党は、細川と何らかの繋がりがあろう。確か伊賀者の誰かが、細川の殿様のお抱えだったはずだ。その辺りで、お前を連絡係に使っていたのか?」

「わらわは間者だったっての?」

 じろ、と睨む深成に、真砂は眼を細めた。
 否定も肯定もしない。

「そんな、あれを探れとか、これを調べろとか、言われたことないよ?」

 ぷぅ、と膨れる深成に、真砂は、ふ、と馬鹿にしたように短く笑った。

「ガキにそこまで求めてはないだろうさ。でも純な分、何でもかんでも喋るだろう。下手に探りを命じたほうが、ガキなだけにぼろを出す。そんな危険は冒さんさ」
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