夜香花
「お前は嬉しかったのか?」

 使命感もないような子供が、頭領と崇められて嬉しいものだろうか。
 というより以前に、頭領がどういうものかも、わからないだろう。

「嬉しいってわけじゃないけど。でも、頭領って一番偉い人でしょ。普通はなりたいもんじゃないの?」

「そうかい」

 ふん、と鼻を鳴らし、真砂はごろりと横になった。

「なかなか欲深いな、お前」

 にやりと笑う。
 深成はきょとんとし、次いで、伸びをした。

「そうじゃなくて。そもそもわらわの党は、もう爺しかいなかったんだから、わらわが頭領の血筋じゃなくても、そのうちわらわがなってたでしょ。わらわじゃなくて、あんただよ。あんたの党こそ、結構な規模じゃないの? その頭になれるなんて、名誉なことでしょ」

 そして、大あくびをすると、深成は目を閉じるなり、健やかな寝息を立て始めた。

「だから……無防備すぎる……」

 渋い顔で、真砂は少し離れたところに転がる深成を眺めて呟いた。
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