たまごのような恋 殻を割ったそのとき
 またペット扱いするよ、このお兄さんは・・・・・・。このままやられっぱなしも嫌だな。何か言い返さないと!

「ペットってどんな?ワンちゃんやネコちゃんみたいに可愛いの?」

 彼は少々呆れ顔で見たあと、俯いて、小さく息を吐いた。バス停には何台かバスが停まっていた。それらの中に自分たちが乗るバスがちゃんとあった。バスに乗り、二人分の席に座った。発車するのは数分後だった。

「さっきの続きだけど・・・・・・」
「ん?」
「猫や犬だと思っているのか?自分で」
「ううん、思っていない」

 ニコニコと笑顔でいった。そういえば、お兄ちゃんやお父さん以外の男性とでかけることは支樹くらいだ。今までつきあったことなんてない。他の女子のように放課後にデートをしたりするなんてことは私にはなかった。よそのクラスの男子を見て、ちょっとかっこいいなぁと思うことはあったけど、ただそれだけだった。今日、一緒に行動したのはお出かけでデートではない。デートというのは恋人としてあちこち行くことをいうのだと、私は思っている。

「今日はどうだった?」
「楽しかったよ。支樹は?」
「俺も」

 バスはすでに発車していた。ゆらゆらとバスに揺られながら、お喋りをしていた。今日の映画のこういうところが良かったとか、あそこの店もオススメだとか、そういった話をしていると、支樹は話すのをやめて、財布から小銭を出して、お金を払った。窓から手を振ると、私と同じように手を振りかえしてくれた。支樹が見えなくなると、私は前を向いて座りなおした。辺りを見回してみると、中学生の子達が楽しそうに喋っていた。
 相手がいなくなると、一気に静かに感じる。何人かの話し声はちゃんと聞こえているのに。なんだか切ない気持ちになった。冷たい風が頬にあたり、胸をしめつけられた。
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