たまごのような恋 殻を割ったそのとき
 それを聞いた彼は驚いていて、当然のリアクションだった。
 昔はそんな便利なものはなかったけれど、現在では持っていて当たり前なのだから。持っていないことは今となっては、とても珍しいことだ。

「何か悪さをして買ってもらえなかったのか?」
「ううん。そうじゃない。必要性を感じないから」

 私の返答にさっきより驚いた表情に変わった。

「じゃあ・・・・・・これからもときどき、ここに来ようかな・・・・・・」

 立ち上がり、鞄を持って、部屋を出ようとした。

「帰るのか?」
「あぁ、あんまり遅くまでいるわけにはいかないだろ。もう夕飯時だしな」

 時計を見ると、遅い時間だ。玄関まで送ろうと、私も立ち上がろうとしたときだった。

「良かったら、食べていかないか?琴音が準備するから」

 キッチンをちゃんと見ていなかったので、そのあたりは把握していなかった。

「ちょっと、材料はあるの?」
「あるから心配ないな」
「お兄ちゃん、今から作っていたら、時間がかかるよ」

 もちろん、何を作るのかにもよるが、簡単なものを作ったとしても、三十分以上はかかってしまう。
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