たまごのような恋 殻を割ったそのとき
「あっちへ行ってみればわかる」

 兄はキッチンを指さした。キッチンに足を踏み入れると、鍋が置いてあることを発見した。中身を見てみると、たくさんの煮物が入っていた。おそらく今日、帰ってきてすぐに作ったのだろう。
 たった今、気がついたが、炊飯器には炊き込みご飯があった。

「じゃあ、準備をするね。少しだけ待っていて」

 煮物を温めている間に器や茶碗などをテーブルに並べていく。兄が作っていてくれていたので、すぐに食べることができる。

「できたよ。食べよう」

 椅子に座ろうとすると、支樹が近づいてきたので、どうしたのだろうと思っていると、耳元でささやいた。

「いいにおいだな」

 低い声に思わず、手が震えた。

「な、何が?」
「夕飯」

 何でがっかりしているのだろう。

「期待した?」

 くすっと笑いながら、顔を覗き込んでくる。慌てて彼から離れた。

「何に?煮物の事だってわかっていたよ」
「そう?」
「あ、それともご飯かな。こっちも美味しそうに炊けているから」
「今日は誠一が作ったものだけど、今度は琴音が作ったものがいいな」
「またの機会に」
「なぁ、今度はいつこっちに来る予定?」
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