たまごのような恋 殻を割ったそのとき
 急いで鞄からハンカチを出して、彼の髪の毛や肩などを拭いた。拭き終わると同時に、抱きしめられ、動けなくなってしまった。

「寒いな・・・・・・」
「は、離れてよ・・・・・・」

 そう言って剝がそうとするが、やはり男と女の力の差は大きい。そうわかっていても、何とか離れようとしたら、すぐに離れたが、頭を左右に振ったので、水が飛んできた。
 「まだ時間があるな・・・・・・」

 駅の時計を見て、彼が独り言のようにつぶやいた。

「もう少しどこかへ行くか」
「は?」

 一瞬寂しそうな顔をしたような・・・・・・。
 雨は音楽を奏でるように止まることなく、降り続いている。
 切符を買う必要はない。私も彼も定期券を持っているから。彼は黙ったまま、景色を眺めていた。ただ、いつもと違うことがあった。それは私の手に彼の手を重ね合わせているということ。

「どこに行くの?」
「モールへ行く前も同じ質問をしていたな」

 くすりと静かに笑っていた。
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