たまごのような恋 殻を割ったそのとき
「だって、何も言ってくれないから」
「お楽しみは後にとっておくのがいいからな」
「食事のときもそうだね」
「食事?」
「うん」

 支樹はいつも好きなものを後から食べている。

「集中して食事ができないくらい、俺に見惚れているのか?」
「そんなんじゃないよ」
「降りるぞ」

 電車の両側のドアが開いて、左から降りた。小さい頃に何度か訪れたことがあるので、知っている駅ではある。 彼について行くと、どうやら地下に向かっているようだ。人通りが多くて、人ごみに飲まれてしまいそうになったが、なんとか前に進むことができた。
 しかし、左右も前後も見たが、彼の姿はなかった。彼の名前を呼ぼうと、息を吸い込むと同時に手を引っ張られた。

「迷子、発見」
「支樹!どこへ行っていたの?」

 彼は質問を無視した。手を握ったまま口を開いた。

「ここは迷子センターなんてないからな。後ろを見たら、半泣き状態の琴音が見えたから」
「誰も半泣きになんてなってない」

 ひたすらまっすぐに進んでいる。どこを見ても、飲食店だ。

「お腹が空くの、早いね・・・・・・」
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