たまごのような恋 殻を割ったそのとき
 そう行って、バタンとドアを閉めた。行ってらっしゃいと言ったが、聞こえていたかどうかわからない。部屋へ戻り、再び食べさせた。

「あっつ!」
「あっ、ごめん。火傷した?」

 箸を置いて、彼を見ると、熱そうに口元を手で押さえていた。
 コップに入っていたお茶はとっくになくなっていたので、急いで行こうとした。すると、いきなり強い力で引っ張られて、視界が暗くなった。
 気づいたら、支樹の腕の中にいて、頭を撫でられていた。私も別の意味で熱が上がる。
 怒らないことをいいことに、さらに抱きしめる力を強めて、髪に顔をうずめてきた。一人でパニック状態に陥っていた。体を捩ろうとしたとき、一瞬だけ支樹が笑っているのが見えた。
 少ししか時間が経っていないだろうけど、長く感じた。何か忘れているような気がしていて、そのことをやっと思い出した。

「ああっ!」

 見てみると、半分もお粥が残っていて、すっかり冷めている。

「ちゃんと全部食べるから大丈夫」

 怒らせないようにしている。せっかく作ったのにと言わせないように先回りをしている。
 今度は支樹が自分で食べ始めた。熱くないので、さっさと食べてしまった。
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