たまごのような恋 殻を割ったそのとき
「騙される奴が悪いからな」

 自分の中で何かが壊れていく音がした。いつの間にか指が頬に移動していて、顎をくすぐられていた。すぐに体をよじって、逃げようとしたけれど、支樹は遠慮なく、追いかけてきた。

「いい加減にして!怒るからね!」
「もう怒っているだろう」
「誰かさんが悪いからね」

 プイッと支樹から視線をはずしていると、両手を壁に押し付けられ、動けなくなってしまった。一瞬、何が起こったのかわからず、再び支樹を見た。すると、支樹の顔がゆっくりと近づいている事に気づき、頭の中で混乱している。そういえば前にもこんなことがあったよね。あのあとはキ・・・・・・駄目!考えるのはよくない。

「強く握っているから血管が浮き出ているよ」
「そんなこと知らない」
「前にもこういうことをしたけどさ、俺たちまだキスをしていないよね」
「だ、だから?」
「キスしようか」

 じんわりと体温が上がった。どうしよう、何かを言わなくてはいけない。

「前に・・・・・・された」

 だんだん声が小さくなっていった。それがおかしかったのか、少し笑い声が漏れた。

「あのときは頬だっただろう。今度はこっち」
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