たまごのような恋 殻を割ったそのとき
 支樹、今も待っているのかな。交代の時間まで、まだ一時間以上はある。先に時間を伝えておけばよかったと少し後悔していた。
 支樹のことはひとまず置いておいて、宣伝を開始しようとしたとき、誰かに肩を掴まれた。振り向くとそこには知らない上級生が二人立っていた。

「ちょっと来てほしいの」
「何の用ですか?忙しいので、後にしてください」
「いいから来て」

 強引に腕を引っ張り、人気のないところまで連れて来られた。

「いきなり何ですか?」
「さっきの年上の彼氏とベタベタしていたでしょ」

 支樹のことだとすぐにわかった。彼とはいつもどおり一緒にいただけ。

「ねぇ、聞こえているなら、何か喋ったら!?」
「先輩方にとやかく言われる筋合いはありませんので」

 いつまでもこんな人たちと一緒にいたくなんかない。

「話はまだ終わっていないわよ」

 背中に強い痛みを感じた。両肩を掴まれ、そのまま壁に押しつけられた。
 痛みで顔を歪めて気分が良くなったのか、二人は馬鹿にしたように笑っている。

「ごめんねー。痛かった?」
「そりゃあ、痛いだろうな。音がこっちまで響くぐらいだから」

 声のする方向を見ると、支樹が歩いてきている。
 さっきまで逃がさないように力を込めていたが、今は完全に緩んでいる。すぐに手を振り払い、支樹のところまで駆け寄った。
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