ツンデレ竜とお姫様
その日は荷物を一緒に運んでもらっただけだけど、あたしが姫川を好きになるのはそのすぐ後のこと。


それは一週間後の授業中、姫川の寝顔を見てしまったことに他ならない。


始業式一週間後というかなり早いタイミングで行われた席替えで、あたしは忌まわしくも姫川と隣の席になってしまったのだ。


正直いい気はしなかった。


知られていないと思っていたあたしの名前を、姫川が知っていたなんて、なんだか気まずい。


「おい、姫川、次の問題を解けー」


数学の時間、男の先生に指名されたものの、よほど疲れていたのか姫川は両腕を枕にして机に突っ伏して爆睡していた。


隣のあたしにまで聞こえてくる、すーすーという寝息。


「姫川、おい、姫川」


先生が何度起こしても姫川の頭が上がることはない。


「隣の本間、叩き起こしていいぞ」という教師らしからぬ言葉に甘んじて、あたしは姫川の広い背中を思い切り叩いてやった。


バッチーン!!という大きな音と「いってええええ!!!」という姫川の大声が教室中に響き渡り、一瞬の沈黙の後、クラスにいるみんなの笑い声が教室を包んだ。


「おはよう姫川。今は英語の時間じゃない。数学だ。違う、数学Ⅱの教科書を開け。七ページの第三問の問五を解いてもらおうか」


先生が姫川の前まで来て黒いオーラを放ちながらにっこり微笑むそばで、姫川は慌てて机の上に開かれていた英語の教科書を閉まったり、間違えて数学Bの教科書を取り出したりと、寝起きでかなりわたわたしていた。


「あ、今虚数解やってるんですか。問五の答えは2+iです」


数学は断トツでクラスで一番できると理解したのもこの時である。



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