ツンデレ竜とお姫様
その日の放課後、あたしはドキドキしていた。


姫川のさっきの寝顔を思い出しては、思わずにやけてしまいそうな口元をギュッと閉じる。


あたしが姫川の背中を叩く一瞬前、あたしの方に彼の顔が動いた。


柔和で人懐こい顔は睫毛が伏せられることによって幼さを増し、わずかに開かれた唇は真っ赤で、思わず振りかぶった腕に力が入ってしまったのだ。


姫川のそれはあたしにだいぶダメージを与えたようで、あれから三時間以上経った今も忘れることができなかった。


もう、ダメだなあ。


「あれ、竜希ちゃんだ。何してんの?」


廊下から顔を覗かせたのは、授業の時よりもネクタイを緩ませてワイシャツのボタンを二つ外した姫川だった。


はだけたワイシャツの隙間から鎖骨が見えて、あたしは急に恥ずかしくなった。


「……別に。もうすぐ帰る」

「さっきの平手は痛かったなあ。今見たら、手形ついてた」


そりゃあ、まあ、思い切りひっぱたきましたから。


「……ごめん」

「ん? いいよいいよ、別に。起こしてくれたんでしょ」

「……でも」

「それに俺、嫌じゃなかったしね」


へらっと笑った姫川の発言に、あたしは耳を疑った。


……嫌じゃなかった?


痛かったのが?


思わず首を傾げそうになる。


「こいつ、Mなのか?」という疑念があたしの中で生まれる。


ちなみにあたしがあんな平手を喰らったら、いくら仲のいい親友にやられたとしても、一瞬でも恨みを持つに違いない。


「あっそ……。じゃああたし、帰るから」


姫川の前で話すと、なぜかいつもより声が低くそっけなく返してしまう。


なんでだろう。


もやもやする気持ちを押さえながら机の間を通って教室を出ようとすると、最後の机の足につま先をとられ、体が前のめりになる。


「わっ……」

「あっ」


あたしを見て動いた姫川を視界の端で捉えた直後、あたしの体は痛みに襲われた。


< 6 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop