ツンデレ竜とお姫様
「ちょ、ちょっ……」


まず慌てたのはあたし。


今のこの状況をなんとか回避しようとするけど、逃げ出せない。


頭の隅でこれはまずいと赤ランプが点滅している。


「姫川、ちょっと、帰りたいんだけど」

「俺は竜希といたい」


初めて姫川から呼び捨てで呼ばれて、これまたドキドキしてしまう。


いや、でも、これはまずい。


あたしは自分の不注意に姫川を巻き込んでしまったのである。


あたしが内心かなり戸惑ってる中、姫川はじっとあたしを見上げている。


つまりは、まあ、その…………。


あたしは姫川を押し倒しちゃっていました。


押し倒されたことがなければ、男を押し倒しちゃったことなんて当然初めてで。


姫川の顔の横についた手の平で体重を支えているから、正直もう疲れた。


でも床から手が離せないのは、姫川の指がその腕に絡み付いているから。しかもけっこう強い力で。


少し痛いくらいの力で、本当ならば頭突きでもなんでもして逃げ出すところだけど、それができないのは、あたしの中に生まれてしまった気持ちに起因する。


姫川を見下ろしながら、ぼんやりと理解した。


「姫川……」

「何?」

「あんた、あたしに襲われたいの?」

「うん」


予想通……いや、こんなにあっさり肯定してくるとは思わなかった。


「なんで?」

「なんでって」

「だって、まだ知り合って間もないし」

「関係ないでしょ。そしたら一目惚れとかできないよ」

「そうだけど」

「竜希ってさ、俺のこと好きでしょ」


それは確信しているとでも言いたけだ。


「は?」

「わかるよ、見てて」

「好きじゃない」

「好きだよ。じゃなきゃ押し倒したりしないし」

「うっさい。その口塞ぐよ」


あたしの下で姫川がくすっと笑う。


「言ってることが矛盾してるし」

「死ね」

「竜希になら殺されてもいい」


確信。


この男はドMである。


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