goldscull・不完全な完全犯罪Ⅲ
親友の兄貴
 俺はデパートの従業員用エレベーターの前で亡くなったロック歌手・木暮敦士の弟を訪ねることにした。

ソイツは木暮悠哉と言って、俺の中学時代の親友だった。


サッカー部のエースになると言う、同じ夢を見ていた仲間だった。
彼も俺同様に身長が低かったが、パワーだけは超一流だった。

でも兄貴の不遇の最期を見て、意気消沈してサッカーを辞めてしまったのだ。
結果俺がエースになった。
もし……
そいつが残っていれば、俺は……
そんなことを俺は何時も考えていた。




 木暮は俺とみずほの付き合い出したいきさつを知っていた。
だから、みずほが殺されたと解った時物凄く腹を立ててくれたんだ。


俺はどうしようもなくて、事件の全てを木暮には話したんだ。

千穂の俺に対する恋心まで話したら……


『それは感じていた』
ダメ出しにそう言われてしまった。


俺はどうしょうもなくなって、全てがキューピッド様をもてあそんだ結果だったとも打ち明けていた。

今思うとどうかしていたと思う。

なぜあんなにムキになったのだろ?

それはきっと、俺が木暮を頼ったからなのだ。

木暮は確かに俺の親友だったんだ。

だから聞いてもらいたかったんだ。

だから余計に自分を正当化したのかも知れない。




 玄関のチャイムを鳴らすと、木暮が飛んで来た。


『木暮の兄貴のことで話がある』
と、電話しておいたからだと思うけど。

でも流石にボンドー原っぱのことは言えなかった。


「兄貴の話なら、此処がいいと思って」
木暮はそう言いながら、仏間の襖を開けた。


其処には小さな仏壇に納められた位牌と写真があった。


真っ先に木暮の兄貴の遺影に手を合わせる。
それが礼儀だと、家を出る前に母に教えられた。
合掌しながら、まだまだ未熟な自分に気付いた。


(――母さんありがとう)
妙に素直な自分の出現に少し戸惑ってはいた。




 目の前の写真の木暮敦士は金髪では無かった。
茶髪のロン毛だった。


それはあのゴールドスカルに触れて見た、意識とは少し違っていた。


「あの金髪じゃ?」


「ん。……あ、そうそうデビュー前に金髪にしたんだそうだ。でもこの茶髪は本当は違うんだってさ」


「え、何が違うの?」


「兄貴は介護ヘルパーだったんだよ。仕事にこんな頭じゃいけないらしくてさ、鬘なんだって」


「確かロックだったよね?」
俺の質問に木暮は頷いた。


「鬘で大丈夫か?」

俺は頭の中で、ボンドー原っぱのパフォーマンスを思い出していた。




 舞台狭しと暴れまくる彼がもし鬘だったら……


(――踊りまくっている内に鬘がポロリ……)
想像しただけで可笑しくなってきた。

でも俺は必死に笑いを堪えていた。
此処で笑ったら失礼過ぎると思ったのだ。


でも木暮は俺の変化に気付いたようだった。


「瑞穂。もしかしたら……、鬘がポロリなんて想像した?」

いきなりの直球で俺は慌てて……
それでも仕方なく頷いた。


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