あいのうた
「それこそ和馬も大地も、最初は客から叱られたりもしてたし…あ、ハルは男にセクハラされて泣かされてたこともあったな」
「えっ!そうなの?」
「そうそう。それでも何時間、何日、何年…仕事を積み重ねて、自分なりの形を作るんだよ」
「…トラも、そうだった?」
「あー…俺に至っては最初はこの店継ぐ気すらもなかったからな」
「え!?」
驚く私に、ははっと笑ってぐしゃぐしゃと髪をかく。
「うちの親父、俺がガキの頃から一年中仕事してばっかの奴でさ」
「トラのお父さん…ってことは先代の店長?」
「そ。朝から晩までこの店でずーっと仕事して、家族なんて放置して…母親は何も言わない人だったけど、俺はガキなりに寂しかったな」