巡り巡る命
 夫が死んだと知らせを受けたのは戦争が終わってから三日後の事だった。
 隻腕の男が、夫の鳶色の髪の毛を持って家を訪ねてきたのだ。
「あいつは俺を庇って死んだ」
 と。
 私が何も言えずにいると、その男は夫の遺髪を私に押し付けてから土下座した。
「すまない。本当にすまない」
 ああ、この男は何を言っているのだろう。
 シュンが死んだなんて。
 彼が私を置いて逝く筈ないのに。
 決して一人にはしないとシュンが誓ったから、だから私は彼と結婚したというのに。
 私は軽い眩暈を覚えた。
 だけれども土下座している男にそんな事をしなくていいと言わなくてはならない。
 シュンが死んだなんて冗談の為だけに大の男が頭を地面にこすりつける必要はないのだ。
 だから言わなくては。
 そう思った瞬間、私の世界は暗転した。
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