光の中のラビリンス[仮]
怒りの炎は彼女の瞳の内で激しく燃え上がり、少女は悔しげに唇をかみしめた。




まだ、この世界と付き合わなければならないのか。




この腐りきった世界と……。



今までの我が身に起こったことが脳裏によぎり、少女は両の拳を力の限り握り締める。



怒鳴り散らしたい衝動を必死に抑え、少女は静かに彼を睨む。



その瞳には明かな怒りが滲んでいた。



それに気付いているのかいないのか。少年は不思議そうに目を瞬いた。





「余計なこと? どうして?」

「どうして、って? そんなの……」




決まっているじゃない、と心の中で呟き自嘲的な笑みを唇の端にのせる。




彼女は、不慮の事故なので屋根の上から落ちたわけじゃない。



自分の意思で屋根の上から身を投げたのだ。



この世界が嫌いで――醜い富裕層や貴族の者に仕えるのに嫌気がさして。



彼女の希望の光などと言うものは何一つとしてない。



あるものと言えば、貴族への怨みだけである。



真っ黒な感情は何年も彼女に陶中に渦巻き、振りつもりどんどん増幅していく。



蔑まれ、嘲笑われる日々をどう見れば幸せだと言えようか。



唇を三日月形に釣り上げて、少女は真っ直ぐに少年を見つめる。






「――死にたかったからに、決まってるじゃない」




冷たく吐きだされた言葉は、言葉の端々に邪魔をした彼に向けての苛立ちが滲む。






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