向かいの窓の小さな彼。
糸と鈴
「ぐすっ…きょーちゃん…」
「また泣いてんのか~春は。何があった?」
「…あのねっ…さっき幼稚園バスでね…ひろくんが、はるちゃんの弱虫~っていったの~…」
「またかよ~…春、何回も言ったろ?春は、強い子だから泣くんだって!泣くのが恥ずかしいなんて思ってるひろより、絶対強いよ!」
向かい合わせのベランダ。
お互いのベランダの柵まで
縄跳びの片方を投げれば繋がれる距離。
お互いアパートの一階に住んでいた私達は
毎日のようにベランダに出て遊んでいた。
わざわざ靴を履いて、家の玄関へ周るよりも
こっちの方が近かったから。
早く会えるから。
カーテンを全開にして
声を上げれば届く距離。
私達は距離なんて
感じた事もなかった。
何があっても、2人は一緒だったから。
もうすぐ小学生に上がる頃
いつも泣いていた私を
峡はベランダ越しに慰めてくれた。
何度も何度も
糸電話で会話をしながら。
理不尽な理由でも
峡は絶対に声をかけて慰めてくれた。
寂しい時には糸電話を引っ張る。
コップの底についた鈴が、
お互いに知らせてくれる。
声をあげて話すより
声がすぐ隣で聞こえる、糸電話が私は大好きだった。