向かいの窓の小さな彼。
しばらくすると、少し離れて歩いていた桜が走って戻って来た。


「ごめん春、友哉くん!私ちょっと弟迎えに行かなきゃ!」

「そっかー分かった!!」

「えっ弟何歳?!」

「私の弟、今まだ保育園でさ。お母さんが今日迎えに行けなくなっちゃって…だから、ごめんね!また明日ね!」


桜はサッと走って行った。


桜の家はお父さんとお母さんが再婚で
桜はお母さんの連れ子。
弟は再婚後に出来た子供で、
桜はすごく可愛がっていた。



「へぇ~桜ちゃん偉いんやなぁ!家の事ちゃーんとしてんなぁ!」

「えっ!あっ、うん!」


桜が帰ってから気づいた。



今から2人っきりだ…!!


今までずっと彼氏が出来ず、
峡以外の男の人と、2人きりになるのは初めてだった。



…どーしよう!!
何話したらいいの?!





春は挙動不審になりながらも、
隣を歩く友哉に必死について行った。




「春ちゃん、何食べたい?」

「えっ?」

「今からお茶すんねやろ?(笑)どっか入ろーや!」

「うん!じゃあ…ドーナツとか?」

「おっええね!ミ○ドいこか!ミ○ド!」



友哉は、着くまでの間、
色んな話を春に、面白く可笑しく話してくれた。

中学生の頃の話、この高校を受けようと思った話、サッカーの話…
自分の話を沢山してくれた。


春はそれを聞き、笑って相槌を打っていればかった。





「ほんでな、サッカー始めて二ヶ月くらいかなー?小学校の体育の授業中、足の骨ボッキーって折ってもうて!(笑)」

「えーっ!(笑)大丈夫だったの?」

「…試合出してもらえへんよね(笑)練習も出来ひんし、ずーっと草むしりしてたわ!」

「あはは!小学校の頃、よくさせられたよね!草むしり!峡もさっ…」

「…?」





つい、癖で峡の名前を出してしまう。


もう喋らなくなって二年近く経つのに、
未だにすぐ、峡の名前が出てきてしまう。


フられた訳じゃないのに。付き合ってた訳でもないのに。好きな訳でもないのに。ただ幼馴染なだけなのに…







峡の名前を無意識に出して黙り込んでしまった春に、友哉は優しく声をかけた。



「その…さ、峡?って人、春ちゃんの元カレかなんか?」

「違うよ!そんなんじゃないんだけど!…」

「…よかったら、聞かせてくれへんかな?春ちゃんがそんな顔すんの、しょっ中見てられへんし。」

「あっ…うん。ほら、先にドーナツ食べよ!」



何故か少し気まずくなってしまった2人は
それぞれ注文を済ませ、一番奥の席に座った。










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