向かいの窓の小さな彼。
「峡はね、あたしの向かいの家の子で、幼馴染なの。」
沈黙に耐えきれなくなった春は
自分から話を切り出した。
峡とは毎日一緒に居た事。
ベランダの糸電話の事。
学校での事。
色んな事を話した。
「なんや、むっちゃ仲良しやん!それやのに今は仲良くないん?大喧嘩でもしたんか?(笑)」
「それだったらまだいいんだけどねー!!」
「…ちゃうんや?」
春は机に顎をつきながら、明らかに寂しそうに喋った。
「峡がね、中2にあがった頃から、全くあたしと話さなくなったの。」
「…なんで?」
「わかんない(笑)」
「はぁー?(笑)」
「ほんとに、理由が全くわかんないのよね!学校で喋りかけても普通だし、他の友達とは普通に喋るのに、あたしだけ!」
「桜ちゃんは?」
「桜にも普通!だけどあたしの話になったら話題を逸らすんだって…あたし何かしたかな?
…あーーっ!考えてたら腹立ってきた!峡の馬鹿やろうっ!」
「まぁまぁ(笑)えっ、ほんまにそれっきり?」
「うん。それっきり。ベランダも全くカーテン開けてくれないし、峡ママも、全く顔見せないし。まぁ、峡ママは元々あんまり会わなかったんだけど。」
「パパは?」
「いない。峡のお父さん、峡が生まれてすぐどっか行っちゃったんだって。私も会った事ないの。」
「…そうかー…なんやねんその、峡って奴。全く意味分からへん(笑)」
「峡の友達に聞いても何も知らないって言うし、もうどうしていいかわかんなくてさっ」
私は目の前のジュースを飲み干した。
久しぶりに峡の話をすると、すごく、懐かしい気持ちになった。
でも、考えれば考える程、分からない。
峡があたしを急に拒否する理由が…。
「だから、あたしもう嫌われたんだなーって思って。それで、高校も別々。峡とはずっと一緒と思ってたのに。」
そう言って俯いた春の頭に、暖かいものが触れた。
「まーまー、その峡って奴なんか忘れてさっ、高校生活楽しもうやっ!!この高校に、峡くんはおらへんのやし!」
そう言って、友哉は春の頭から手を離した。
春の髪の毛は、友哉に撫で回されて、くしゃくしゃだった。
「…そーだよね!峡の事なんか気にしてられない!でも…」
「…でも?」
「いつか、どうして嫌いになったのか、聞けたらいいな…」
「……せやな。いつかな!その時は俺も一緒におったるわ!」
「…わーなんか上から目線(笑)」
「ええねん!俺当事者ちゃうし(笑)」
「ひっどーい!(笑)」
いつも峡の事になると考えこんでしまうのに
友哉には自然と話せた。
むしろ、笑って話せた。
そして、笑わせてくれた。
友哉の優しさに感謝しながら、私はまたドーナツに手を出した。
高校一年生の春。
私達は、まだまだ子供だった。