ハロー、バイバイ!
自分を落ち着かせようとキッチンに入り、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに次ぎながら、美紗は忌々しく思った。
…非常識過ぎる。
ヒカルもアホだが、目の前にいる女は、深夜に初対面で乱れ髪の上、ボーイフレンドの姉に対して挨拶一つ出来ない。
(きっと急に帰ってきた私のこと、
お邪魔虫とでも思ってるんでしょ…)
美紗は、二人に背を向け、流しに放置された朝食の食器を洗い始めた。
(博多の親にも報告しなくっちゃ…)
二年前、継父に辞令が出て、福岡の博多に転勤になった。
未だに彼にぞっこんな母は、万が一の夫の浮気を心配し、単身赴任などさせられないと、夫の赴任先について行くことを選んだ。
この家には、美紗と高校三年生だったヒカルが残された。
ヒカルは今年20歳になった。
法律的には成人だけれど、
まだ学生の身分。
ここでは美紗がヒカルの親代わりだ。
こんな事態を野放しには出来ない。
(それにしても、いつからなんだろう…)
ヒカルは結構モテることは知っていた。
けれど、ヒカルが親兄弟に彼女を紹介したことはなかった。
高校時代は、友達とバンドを組み、自分の部屋でもお世辞にも上手いとは言えないギターを掻き鳴らしていた。