ハロー、バイバイ!


付き合い始めの頃、美紗が言った。


ー私も小さい頃、親が離婚して、父親の顔知らないの。
でも、一度も会いたいって思ったことないのよね…


ーへえ…なんで?


美紗の栗色の髪を愛しげに撫でながら誠は訊いた。
彼のベッドの中で。


ーお母さんの実家で育ったんだけど。
楽しかったから、全然寂しくなかったんだよね…



母は幼い美紗を連れて離婚したけれど、出戻りの母と美紗を迎えてくれた実家の環境は、とても恵まれていた。


古いけれど、広い庭のある一軒家には、当時、壮健だった祖父母、まだ独身だった明るい母の姉がいた。

母は二人姉妹だった。

犬二匹に猫三匹。

祖父が趣味で手作りした小さな池には鯉、亀が住んでいた。


孫思いの祖父が父親代わりを務め、美紗は一人っ子で大人達に大切にされて大きくなった。


祖父は何も言わなかったが、祖母、母、伯母の三人は、美紗の父親をケチョンケチョンにけなしていた。


仕事が休みの日、晴れでも雨でも女たちは一日中のようにテレビの前のちゃぶ台に集い、お茶を飲んでいた。


ーギャンブル狂いのプータロー。


美紗の実父を母の姉がそう言って、祖母と母がウケて笑う。


或いは、いやあね、と汚いもののように顔を顰める。

美紗が大人になるまで、何度も繰り返された光景だ。




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