ハロー、バイバイ!
短時間で目の前の男が、恋の相手に値するのか、見極めたくなってしまうのだ。
コピー室は、窓のない狭い空間にコピー機とシュレッダーが並べて置いてあった。
いきなり、初日から、密室で男と二人きりだ。
しかも、思い切り好みのタイプの。
嬉しい事態に舞い上がりながらも、美紗は必死で落ち着こうと、ゆっくり呼吸をするように心掛けた。
(へんなミスをしちゃったら、
カッコ悪いし~)
美紗はそれとなく視線を動かし、彼の左手薬指をチェックする。
それは習性だ。
もう、29歳。
余計なことをしている時間はない。
『好きだから』とか言って、既婚者に突っ走るのは、『23歳以下まで』が美紗の持論だ。
結婚適齢期なんて死語だけれど、余計なことをしている時間なんてない。
(よっしゃ…OK!…)
彼の指に何もないことを確認した美紗は嬉しくなる。
まずは第一関門突破。
「あのう…設計課の方ですか?」
美紗は上目遣いで訊いた。
彼の首から下げたIDカードは作業服の胸ポケットに仕舞われ、名前を知ることが出来なかった。
「あ、俺?」
書類を仕分ける手を止め、男はまじまじと美紗の顔を見詰めた。