ハロー、バイバイ!
男の前には、ビデオカメラが三脚にセットされていた。
その隣の茶髪のロングヘアの女が、きららにむかって手を振る。
きららはステージ上から二人に向かって満足そうに笑いかけ、手を振り返した。
「…バイバイ、きらら…」
不意に誠が呟いた。
はっとして美紗は、誠を見る。
「出よう!」
誠は勢いよく立ち上がった。
美紗は慌てて、誠の後を追った。
ーーバイバイ、きらら…
バイバイ……
廊下を歩く誠の水色のカッターシャツの背中を見ながら、誠の声が美紗の頭の中で繰り返し蘇る。
誠の幼い娘、きららへの決別の言葉。
気がつくと、知らないうちに美紗の頬は涙で濡れていた。
誠に見られたくなかった。
急いで、ショルダーバッグからハンカチを取り出し、目から下を覆う。
誠が振り向いた瞬間、
「私、トイレに行くね!」
声音が震えてはなるまいと、美紗は意識して大きな声でいい、踵を返した。
昼をまだ少し過ぎたばかりだった。
誠は無言で車を走らせていた。
せっかく3時間近くかけて埼玉まで来たが、どこかに寄る意思は誠にはないようだった。
前ばかりを見て、美紗の方を見ようとしない。