ハロー、バイバイ!


来る時は高速を使ったが、帰りは一般道を使うつもりなのか、高速に入る左折を誠は直進した。


その後、車は道に迷ったかのように、山の中の峠道に入って行く。


「…こんな道使うの?」


美紗の問いに誠は前を向いたまま、答えなかった。

美紗には誠が何を考えているのか分からなかった。

お腹も空いてきたけれど、そんなことは言えなかった。


さまようように、しばらく走ったあと、アスファルトの道を逸れ、鬱蒼と緑が茂る待避所のようなスペースで車を停めた。

エンジンを切ると、静寂が訪れる。


高い樹木に囲まれたそこは、太陽が阻まれて出来た影のせいで少し薄暗い。

密集した木々の間に不審な者が隠れていそうな場所だった。


不気味だ…と美紗は思った。


「どうしたの….?」


運転席の誠に訊かずにはいられなかった。

美紗の問いを無視して、誠は自分のシートベルトを外す。

おもむろに、美紗の身体に覆いかぶさるように身を乗り出して、美紗のシートベルトも外した。


「え、な…に?」


美紗が唖然とするのにも構わず、右手を更に伸ばし、座席レバーを引いて、助手席をフラットにした。

ガクン!と音がして、背もたれがなくなり、美紗の身体が仰向けに倒れる。


「きゃあ!」

美紗は悲鳴を上げた。




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