ペテン死のオーケストラ
母親もマルメロの変化に気づきます。
そして、なじってくるのです。

「なんで、マルメロは幸せそうなのよ」

「私は苦労してるのに!」

「私がお金を稼いできてるのよ!?」

マルメロは耳が痛くなります。
母親の厳しい言葉が、耳と胸にギシギシと響いてくるのです。

母親は疲れきった顔で口癖を言いました。

「生きてるのが辛い」

マルメロは12才、ついに母親に口答えをしました。

「お母さん、その言葉は止めて。言ったところで変わりはしないわ」

母親はマルメロの口答えに驚き、固まってしまいました。

マルメロは話します。

「辛い、辛い、って、何が辛いのよ!?働く所だってある!家だってある!体だって健康!贅沢いわないでよ」

母親はキッとなり言い返しました。

「親に向かって…!あんたは、まだ子供なのよ!だから、分からないんだわ!私はね、こんな貧乏生活をするために生まれてきたんじゃない!私は、もっと楽しく生きるはずだったの!」

マルメロの母親は26才と若く、マルメロを出産した時は14才でした。

当然、家族からは「不貞な娘」と罵られ追い出されてしまいます。
しかし、愛する人と一緒になれるなら幸せだと幼い考えで子供を出産したのです。
これで、幸せな家庭が作れたと思った矢先、愛する人は去っていきました。
それからは、幼いマルメロを必死に育ててきたのです。

マルメロは、そんな事は知りません。
ただ、母親の愚痴を延々と聞かされ続けた12年間の辛さだけが記憶にあるのです。
その辛さを思い出し苛立ってしまいました。
マルメロもまだ幼く、自分の気持ちが先走ってしまいます。

マルメロと母親は、お互い決してひけない理由があったのです。

ですから、二人の喧嘩はひどくなる一方です。
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