ペテン死のオーケストラ
気持ちが落ち着いてくると、母親の事が気になります。

いくら、急いでも実家までは半日以上かかります。

「悔しいけど、認めるわ。私はお母様に死んでほしくないのよ」

ガタガタと揺れる馬車の中で、マルメロは母親について考えます。

幼い頃から、母親はマルメロに辛くあたってきました。

「生きているのが辛い」

母親の口癖。

変な男を家に招き入れ、マルメロを虐めた事もあります。

そんな母親ですが、マルメロにとっては血の繋がった大切な母親なのです。

「生きているのが辛い、か。やっぱり嫌な言葉」

マルメロは、この言葉だけは克服できません。

「まさか、死ねる事を喜んでいないわよね」

母親の顔を思い浮かべ、ザワザワと心がうごめきます。

「私が着くまでは生きていて」

マルメロは金のペンダントを握りしめ祈ります。
目を閉じ、幼かったマルメロに戻り祈るのです。

「お母さん、生きて」

馬車は、速度を上げマルメロを運んでいきました。
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