ペテン死のオーケストラ
「大丈夫です。極度の緊張から筋肉が固くなったみたいですね。赤ちゃんは、元気ですよ」
産婆はマートルに微笑みました。
マートルは安堵の表情で言います。
「良かった…。駄目かと思った」
産婆は迷いましたが、マートルに聞きます。
「マートルさん、赤ちゃんは大丈夫ですけど…。貴女は大丈夫に見えません。顔の傷はどうされたのですか?まるで、殴られたようですよ」
「いえ、転んだのよ。階段を踏み外して思いっきり。ドジでしょ?」
マートルは嘘をつきます。
本当の事を言うのが怖かったからです。
しかし、産婆は分かっていました。
マートルは誰かに殴られたと。
しかし、感情を高ぶらせてはいけないと思い追及はしません。
ただ、一言伝えます。
「私は、マートルさんの味方ですからね」
幼いマートルが必死に子供を守ろうとしている姿が産婆には悲しくも美しく見えたのです。
マートルは笑顔で頷きます。
「ありがとう。とても勇気が出たわ」
それだけ言うと、マートルは病院から帰っていきました。
マートルはこの事件を機にに変わります。
「私のマルメロ。絶対に守り抜いてやる」
マートルは、役場に向かいました。
婚姻届を偽造し、勝手にジキタリスと籍を入れたのです。
罪悪感も何も感じません。
寧ろ、マルメロのために必要な事をしてあげたと喜びを感じるほどです。
マートルのお腹はどんどん大きくなります。
「マルメロは男の子かな?女の子かな?」
お腹を撫で話しかけます。
「できれば、女の子が良いなぁ。友達みたいになれるもの」
お腹の中のマルメロが動きました。
「女の子なのね?マルメロ、早く会いたい」
マートルはお腹を撫でながら、静かに語りかけ続けるのです。
「マルメロ、貴女は希望なの。きっと、幸せになれるわ」
マルメロの誕生が、今の不幸を全て連れ去っていくと信じていました。