ペテン死のオーケストラ
すると、笑顔のマルメロが立っています。

「いつも、お疲れ様。今日は私が夕食を作ったわよ」

マートルは奇跡が起きた、と思います。

あの冷たかったマルメロが、急に可愛らしいマルメロに戻ったからです。

料理を見て感動します。

つい「毒なんて入ってないでしょうね」と、いつもの癖で余計な一言を言ってしまいます。

しかし、マルメロは笑顔のまま。

マートルは、強く幸せを噛み締めました。

「生きてて良かった!マルメロが戻ってきた!」

嬉しくて、嬉しくて。

疲れなんか吹っ飛んでしまいます。

二人の楽しい夕食なんて、何年ぶりでしょう。

マートルは、この時間が永遠に続いてほしい、と願っていました。

しかし、家の扉を叩く音が聞こえます。

「こんな時間に誰よ…」

マルメロとの楽しい時間を邪魔された事に苛立ちながら、扉へと向かいました。

扉を開けたマートルは一瞬にして固まります。

目の前に、町で有名な大富豪の男ハンノキが立っていたからです。

「母上ですね?お初にお目にかかります。ハンノキです。ご挨拶に参りました!」

ハンノキは急に話しかけてきます。

「実は、先日の舞踏会にてマルメロさんに恋を致しまして。突然で驚かれると思いますが婚約の許しを頂きたいのです!」

「は、はぁ?」

「マルメロさんを幸せにできる自信があります。もちろん、母上も幸せにします!どうか、婚約の許しを下さい」

「ちょ、ちょっと!どういうこと?全く意味が分からない」

「意味が分からない?う〜ん…。簡単に言えば、お二人を幸せにして差し上げるという事です!」

マートルは気を失いそうになります。
こんな奇跡、有り得ないと感じたからです。
< 157 / 205 >

この作品をシェア

pagetop