ペテン死のオーケストラ
女性の笑い声に周りは驚きました。

マルメロも、意味が分かりません。

しばらくすると、女性は笑いをおさえました。
周りの貴族達も、何事もなかったかのようにしています。

マルメロは少し苛立ち言いました。

「貴女って、失礼ね」

女性は慌てる素振りもみせずに小さい声で答えます。

「ごめんなさいね。私はサイネリアよ。笑った事は許してちょうだい。貴女が純粋すぎて思わず可愛いと思ったのよ」

マルメロは生まれて初めて、褒められました。

サイネリアは続けます。

「貴族の中にも、まともな人間がいたのね。どいつもこいつも体裁ばっかりで、楽しい会話なんてできないんだもの」

マルメロは、サイネリアというこの女性に完璧に魅了されました。

自分とは全く違う世界の人間なのに、自分と全く同じ世界をもっていると感じたからです。

マルメロは答えます。

「貴族の世界だけじゃないわよ。世の中ほとんどが面白みのない人間ばっか」

サイネリアは目を輝かせ言いました。

「貴女とは、気が合うわ!私は隣町から来たのよ。地元では私は浮きすぎてるから、他所で婿を探せってね。貴女は?」

マルメロは困りました。
自分が貴族でないとバレそうだからです。
しかし、黙っている訳にもいかず答えます。

「私も似たようなものよ。サイネリアと同じよ」

サイネリアは喜びます。

「私たちって似た者同士なのね。ここに来て良かったわ。マルメロと出会えたんですもの!あ、ちょっと待ってね」

サイネリアはナプキンに自分の住所を書き上げ、マルメロに渡しました。

「これ、私の住所よ。よかったら、手紙交換しましょうよ!」

マルメロは、ひどく動揺します。
嘘をついているのがバレてしまうからです。
だからといって、断るのも嫌。
マルメロは、意を決して自分の住所を書きサイネリアに渡しました。

「これが私の住所よ」

マルメロは、冷静さを保ちながらサイネリアに渡しました。

サイネリアは住所を見て、不思議そうな顔をしました。
マルメロはサイネリアを睨みつけています。

しかし、サイネリアは特に気にせずバックにマルメロの住所が書かれたナプキンをしまいました。
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