ペテン死のオーケストラ

マルメロとハンノキが着いた頃には、会場は既に賑やかでした。

自分達の席へ案内され、座りました。
ハンノキはマルメロに言います。

「ここに来ると思い出す。マルメロと初めて出会った日をだ。扉にぶつかったと思えば、目の前に女神が立っていたのだ！まさに、運命！」

「やめてください。恥ずかしいですわ。あれは、ただの偶然。運命だなんて、この世には存在しません」

「マルメロは、まだ若いからな。ワシは知っているのだ。運命は必ずある！マルメロとワシが出会ったようにな」

「分かりましたから、その話しは止めて下さい。そんな事より、直にアザレアとサイネリアが現れますわ」

「がははは！マルメロは冷たいな！」

周りは、ハンノキの笑い声に反応します。
マルメロは、ハンノキの妻である事を恥ずかしく思いました。

ハンノキの笑い声を掻き消すように突然、拍手が起こり始めます。

マルメロは、緊張しました。

「サイネリアが現れた！」

まだ姿は見えませんが、祝福の声と拍手が起こっています。
どうやら、一席、一席、挨拶をしているようです。

ハンノキは、周りなんて気にせず酒を飲んでは笑っています。
しかし、隣に座るマルメロは下を向き落ち着こうと必死です。

徐々に、祝福の声と拍手が近くなってきます。

「大丈夫よ。何を恐れることがあるの？自信を持つのよ！」

マルメロは、パッと顔を上げました。

すると、ちょうどマルメロとハンノキの席に、サイネリアとアザレアが来ていたのです。

両者、言葉を失いました。

マルメロは、サイネリアの美しさに驚いたのです。
凛々しく強い瞳が美しい、サイネリアはまさにマルメロの理想の女性でした。

サイネリアは、まさかハンノキの妻がマルメロだと思っていなかったため驚き声を失ってしまいました。

アザレアは、以前にマルメロから厳しい一言を言われた記憶があり恐れで体が固まってしまったのです。

しかし、ハンノキは違いました。
椅子から立ち上がり、この妙な空気を掻き消すかのように大笑いしながら話し始めました。

「がははは！おめでとう！まさか、アザレアが結婚できるとはな！サイネリアよ、お前は見る目があるぞ。アザレアは気弱だから、お前の好きなように扱える！がははは！！」

マルメロは、慌てて言います。

「ご、ごめんなさい！主人は空気が読めなくて…。失礼な事を言ってしまいました。ただ、悪気はありませんのよ」

マルメロは心の中で「どうして私が、この二人に謝らないといけないのよ！」と叫びながらも、体と口が勝手に動いてしまったのです。

ハンノキは、そんなマルメロを見て満足そうに言いました。

「どうだ？ワシの妻は美しく、気立ても良いだろう！」

マルメロは苛立ちを抑えるのに必死でした。

「ハンノキ…許さない…」

マルメロはハンノキを睨みます。
しかし、ハンノキは笑ってばかりでマルメロの怒りには気づきません。