ペテン死のオーケストラ
ある日、サイネリアがマルメロに言いました。

「クンシランが心配。体調が良くないみたいなのよ。元々、体が弱い子だったから…。クンシランに会いたい」

マルメロは胸が踊りました。
サイネリアを王から離れさせるかもしれないと考えたからです。
マルメロは冷静を保ちつつ答えます。

「それは心配だわ。クンシランもサイネリアに会いたがっているのかも…」

サイネリアの心を乱す言葉を選び、マルメロは話します。

「サイネリアが居なくなった事がクンシランを不安にさせたのかもしれないわね。まだ小さいといっても母親の顔ぐらいは覚えているものよ」

「ええ。クンシランは頭の良い子よ。きっと、私が居なくなった事を分かっていたのよ。もう、5才ですもの。もしかしたら、私を思い出しているのかもしれないわ」

「きっと思い出しているわ。サイネリア、貴女はクンシランに会いたいのでしょ?なら、会いに行くべきよ」

「マルメロ…。それは無理よ。マルメロも知っているでしょ?城に入った者が、むやみに家には帰れないって事を…」

「サイネリアったら、弱気になったわね。しきたりなんて気にしなくて良いのよ。王に頼めば、きっと帰らせてくれるわ」

「そんな事できないわよ。王が良いと言っても城の人達に何て言われるか…」

「まったく。そんな事を気にしてるの?悪口なんて、ただの嫉妬よ」

「マルメロらしいわね。でも、私は…」

ウジウジとしているサイネリアにマルメロは苛立ちます。

「ウジウジしないでよ。ほら、王に頼みなさい!」

マルメロは言い切りました。
しかし、サイネリアは悩んでいる様子です。
そんなサイネリアを見て、マルメロは情けなく思います。

「サイネリアは弱すぎるわ。王は、こんな女のどこが良いのよ」

マルメロはサイネリアを見下しながら思いました。

「わかったわ。私から言ってあげる」

マルメロは、何としてでもサイネリアに消えてほしかったのです。
一時だけでも良いから、王とサイネリアを離したかったのです。
< 83 / 205 >

この作品をシェア

pagetop