ペテン死のオーケストラ
サイネリアは、大きな声で騒いだり、叫んだりしなくなりました。
しかし、マルメロ以外とは口をきかなくなるのです。

王に対してもサイネリアは無言を貫きます。

常に喪服を着て、静かにしているサイネリアを人々は気味悪く思います。

マルメロは優越感に浸り、そんな人々を見下していました。

ある夜、勝ち誇ったマルメロが王に聞きます。

「サイネリアと私なら、どちらを選びますか?」

マルメロは余裕の笑みを見せています。

しかし、王は変わらない答えを言うのです。

「どちらかなど選べない」

マルメロは、信じられませんでした。
王のサイネリアへの想いの強さに呆れてしまいます。
そして、悔しさが込み上げてきます。

サイネリアは、マルメロの言いなり。

なのに、王はサイネリアを愛している。

マルメロは、もどかしくて堪りませんでした。

マルメロは王の部屋を出て、歩きます。

「信じられない!何故サイネリアばかり!私は、サイネリアには勝てないの!?」

マルメロは解放できない苛立ちを抱え、城を歩き回りました。
止まると、サイネリアのように発狂してしまいそうだったからです。

「駄目だわ!頭が熱い!!爆発しそうよ!」

マルメロは、眉間にシワを寄せ頭を手で押さえました。

「外の空気を…」

マルメロは、フラフラと歩きだします。

大きな硝子の扉をあけ、テラスに出ました。

夜の風は冷たく、優しくてマルメロの熱を拭いとってくれます。

「気持ちいいわ…」

静かで、真っ暗な町を見下ろしマルメロは少し落ち着きを取り戻しました。
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