ペテン死のオーケストラ
しかし、サイネリアは急に真剣な顔をします。
マルメロは、また緊張しました。
サイネリアがマルメロに聞きます。

「マルメロのご家族は、お元気?」

マルメロは飛び上がりそうになります。
今の今まで、笑いを堪えていた自分が馬鹿に思えるほど慌ててしまったのです。

「え?いえ、その…」

マルメロは慌てすぎて上手く話せません。
これほど動揺したのは初めてでした。
それほど、母親の事が気になっていたのです。
サイネリアはマルメロの異変に気づき驚いた表情で言いました。

「そんな…!ご家族に何かあったのね?」

「まぁ、隠しておく理由もないわね。母親がね、ちょっと…」

「そうだったの…。ごめんなさいね、私ったらマルメロの事は何も聞かないで自分の事ばっかり。反省しているわ」

「いいのよ。まだ分からないから」

「え?分からないって?」

「急に手紙がきただけ。だから、確認の手紙を出してきた所よ」

「手紙には何て書いてあったの?」

「すぐに戻れって。だから、確認しているのよ」

この言葉にサイネリアは反応します。
明らかに鬱陶しそうな態度に変わりました。

「戻りたくても無理よ。だって、私は無理だったもの。マルメロも確認なんかしない方が良かったのに。期待を持てたわ」

「いいじゃない、別に。私は、物事を白か黒かハッキリさせたいの。そして先に進むのよ。それに、実家に戻るって決めた訳じゃないわ」

「自分に選択権があるみたいに言うのね。たぶん、無理だと思うな…」

明らかにサイネリアはマルメロに苛立っています。
マルメロは相手に苛立たれることに慣れているため何とも思いません。
しかし、サイネリアが苛立つ理由に興味がありました。

「私はサイネリアと違って、自分の意見を貫き通すわよ。心配はいらないわ」

「マルメロって、強情よね。きっと無理よ」

「サイネリア、何にそんなに苛立っているの?」

「苛立ってなんかないわよ」

「まだ、母親が本当に倒れたのかも分からないのよ。少し先走りすぎじゃない?」

サイネリアは馬鹿にするように笑い、ハッキリと言いました。

「残念だけど、お母様は倒れているわ。そんな不幸な事を嘘に利用すると思う?事実は事実として受け止める、でしょ?」

マルメロは顔が熱くなります。
ついさっき、自分が感じた矛盾をサイネリアに咎められたからです。
サイネリアは続けます。

「マルメロも、私の気持ちが分かるわよ。これで、本当の親友ね」

マルメロは気味悪さを感じます。
サイネリアは、涼しげな表情でマルメロを見つめています。

「何だか疲れたわ。部屋に戻るわね」

マルメロはサイネリアに告げ、逃げるように自室へ向かいました。
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