Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
ジャンは無言だった。

頭領への背信行為がバレるという恐れと、盗賊団としての忠誠を誓う信念。

そもそも背信行為自体が忠誠を誓うことに反しているのだが、葛藤がジャンの中で静かに渦巻く。


「カレンのことも、俺はあいつとこのままでいいはずがないんだ」

兄弟としての関係についてもロイは訴えかけた。

一番近くで俺たちを見ていたジャンなら理解を示すかもしれない。

いろいろな方向からジャンの心理を揺さぶる。


カレンの名が出たことに、ジャンの眉がピクリと反応した。

「ここで俺たちを通せば、あの娘のことはニックには黙っておいてやる。
さあ、どうする?
ここで俺を足止めするか、それともあいつのところへ案内するか。
決めろ」

ロイはそう言って腕を組むと、ジャンに答えを促した。


ジャンはしばしの間、無言を貫いていたが、結論が出たのか、ロイに背を向けて数歩足を進めた。

そこへ仲間の一人がジャンに駆け寄る。


ジルとローグはその光景を後方から見張っていた。

ロイが話をつけたようだが、まだ安心はできない。
途端に攻撃を仕掛けてくる可能性も捨てきれない。

手にした武器を握りながら、結果が出るのを見守った。

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