Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
「ジャン、どうしたんだ?」

盗賊団の一人が怪訝な表情を浮かべ、ジャンに問う。

「あの三人をアジトへ連れて行く」

「なんだって?」

「お前らは知らないだろうが、あの男はニックの実の兄貴だ。仕方ない。
先に行って伝えろ。
客人が来たとな」

ほぼ無表情で告げるジャンに、何か物言いたげだったが、その仲間は静かに頷くとその日から走り去った。

ジャンはロイに向き直ると、くいっと首を傾けた。

ついて来い。
そう言っているのだろう。


ロイは密かに胸を撫で下ろすと、大きく息をついて、後方にいたジルとローグに合図した。

すぐに意味は伝わったようだ。

ジルとローグは武器を収め、ジャンの後について行こうとしている。

ロイも歩き出した。


「見事なはったりじゃねぇか」

ローグが不自然のない動きで近づき耳打ちした。

「あいつは盗賊団では古株だ。
俺を知っているからこそ、情があったんだろう」

「ふぅん…。単に無情な連中だと思ってたんだけどな…」

ローグは独り言のように言った。

ロイはなぜだか分からないが、その言葉が引っかかった。

無情に思えるのだが、無情に感じないのだろうか。


ニックは明らかに悪事を働いている。

現にジルは襲われ、友人も攫われた。
他の被害者も出ている。

それは間違いない。
無情な犯行だ。

とにかく、止めなければ。


ただ、あいつはジャンのように説得して分かってくれる相手ではない。

弟は自分を恨んでいる。

そのわだかまりを解かない限り、あいつは俺の言うことなど聞く耳も持たないだろう。


正直、秘策など持ち合わせてはいない。

正面から気持ちでぶつかることしかロイには思いつかない。

これから対峙する相手を思い、ロイは深く息を吸い込んで一歩を踏み出した。

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