Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
乗合馬車が到着するのは、村のちょうど真ん中にある広場だった。
そこへ向かって歩を進める。
すぐ後ろからスコットがついてきた。
陽が上りかけてはいるが、辺りはまだ薄暗い。
朝の冷たく澄んだ空気が、これから旅に出ようとするジルの気持ちを引き締めさせる。
広場に差し掛かると、馬車は既に到着していて、何人かの人影が物資を降ろしているところだった。
馬車を運んできた御者が二人と、村の男たち。
ジルはその中にダレンがいるのを見つけた。
浅黒い顔に無造作に伸びた髭。
だが、きちんとセットしているようにも見える。
頭には少々派手目のバンダナを巻き、胸元がはだけたシャツの上から、これまた派手な色のベストを着崩していた。
ダレンはジルの姿を確認すると、作業から抜け、近寄ってきた。
「おはよう」
先に声を掛けたのはジル。
ダレンはそれに応えるように片手を上げた。
「おぅおぅ。これから都会に行くってのに、何だよ。そのだらしない格好は」
スコットがダレンの着崩しスタイルに呆れ気味の声を漏らすと、
「いいんだよ。都会でも流行ってんだ」
慌てもせずに嘘吹いた。
もう言われ慣れしているようだ。
「ジルの荷物はそんだけ?」
タバコに火を点けながら、ダレンが問う。
長旅に出ようとするジルの荷物が、背負ったリュック一つだけだったからだろう。
「うん。あれこれ持っていっても重いだけだし。
でも必要最低限は入ってるわ」
ダレンが持っていく物の量は、ジルの荷物とは雲泥の差だ。
大半が売り物で、数々の箱や麻袋が降ろされた物資と入れ替わりに馬車に積み込まれていく。
村に帰るときには、それらはお金に姿を変えているのだろう。