Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
ジルは目の前で衝突し倒れこんだ二人に震える手を伸ばした。
左足はもはや感覚を失い、自分のものではないかのようにピクリとも動かない。動かせない。
あと少しでニックの背中に手が届く。
そのとき、伸ばした手にスッと影がさした。
ビクッと見上げると、ジャンが立っていた。
思わず身が竦む。
またしてもこの男に阻まれてしまうのか。
今の状態で敵う相手でないのは、ジルは本能的に察知していた。
ここへ来る前、ロイと話をしていたジャンはそんな無情な男だとは感じなかったはずなのに、今はこの男が怖い。
「どうなったんだ?」
ジャンが呟き、ジルを見据えた。
ジルは声が出せなかった。
「まさか、ニックが兄貴を…」
ジャンはそう声を漏らすと、ロイに覆いかぶさるようにして倒れたニックの身体を起こした。
ニックは苦しそうに胸を押さえている。
その手から湾曲刀が離れた。
「ニックっ」
ジャンが恐ろしいものでも見るように、ニックの身体を揺さぶる。
肩で大きく呼吸するニックは苦しそうに悶えている。
話された二人の身体、その状態をジルは息が止まるような思いで見た。
刀の刃先はロイの身体を掠め、石畳の床に疵を刻んでいる。
直撃の瞬間に刃先がブレた。そんな感じだ。
ロイは無傷だった。