Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
「今回は、お世話になります」
ひょろっとした背の高い若者と、ずんぐりした体型の年配のおじさん。
二人交代で休みながら馬車を操縦するのは乗合馬車のシステムだ。
「こちらこそ、しばらくの間、よろしくな」
年配のおじさんの方が穏やかな表情を浮かべて返してくれた。
これから自分たちを運んでくれる二頭の馬にも挨拶する。
ジルが馬の首の辺りを撫でてやると、馬は首を傾けながら気持ちよさそうにブルルと鳴いた。
「さぁ。そろそろ出発しますよ」
背の高い若者の御者が呼びかけ、ジルはダレンと共に中に乗り込んだ。
馬車の中は二つの空間に分けられていて、後ろ半分が物資スペース。
前にはクッションの硬そうな椅子が三列、窮屈そうに並んでいた。
その三列目に座るミシェルの隣に腰を下ろす。
ダレンは二列目の椅子に座った。
見送りの村人のために、小さな窓をスライドして開けると、そこにはスコットが腕組みしながら馬車を見上げていた。
「気をつけてな。
ダレン、ミシェルを頼むぞ」
スコットに言われ、ダレンは片手を上げて返事する。
ミシェルはピースサインを送っていた。
「おじさん。しばらく留守にするけど元気でね」
「あぁ。村のことは心配ねぇよ」
そう言ってスコットは右手をグーにし、親指を突き立てる。
手綱の合図が入り、馬車がゆっくりと動き始めた。
果たして、ジルたちを乗せた馬車は、一路グランドヒールに向けて出発したのだった。