Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~

<タティウスの丘>の南にある<グランドヒール>に向かうには、丘を迂回して行かなければならない。

丘の斜面が急勾配で、また道も悪く、とても荷馬車が通れるところではないからである。


馬車は迂回路を取るため、まずは<バルバロッサの森>に入った。


昇り始めた太陽が、生い茂る木々の隙間から木漏れ日となり、森の中に幻想的な風景を描いている。

朝露を含んだ空気の中で、馬車が通り抜ける音だけが森の中に響く。


ガタガタと揺れ、お世辞にも快適とは言い難いが、それでもミシェルは興奮気味に馬車の中から見える風景を楽しんでいた。


すっごい、あの木。おっきいね。

あ、見てみて。今、リスがいたよ。

まさか、モンスターなんて出てこないよね？

右へ左へ視線を変えながら、何年ぶりかに目にする村の外の様子に、子供のように声をあげる。


時折、前の座席に座っているダレンが、「うるせ」と悪態をついていたが、いつの間にか諦めたようだった。

今は帽子を目深にかぶり、居眠りに徹している。


ジルは、はしゃぐミシェルに相槌を打ちながら、窓の外の森を眺めていた。

深緑の森の中を走る一本道。

代わり映えしないようで、毎度違った姿を表す。

穏やかであり、危険な森。


まったくモンスターなど現れなかったこの森にも、つい先日、獣人と出くわした。

いく度となく通り抜けしているが、初めてのことで意外だった。

しかし、意外だと感じること自体が自分の油断の表れだ。

旅に危険はつき物だ。

そう思うと、今目の前で笑っているミシェルを、少なくとも一緒にいる間は護らなければならない。

再度ジルは認識しつつ、キュッと唇を結んだ。