Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
それは突然のことだった。
馬の驚いたような悲鳴に近い鳴き声が森の中へ響き、ジルたちの乗っていた馬車が突如として大きく激しく揺れた。
単調的な走行の揺れとは明らかに違う事態に、ジルはハッと目を覚ました。
どうやら自分も眠ってしまっていたらしい。
しかし、そんなことを悠長に考えることなく、ジルは無意識に腰を浮かして構えた。
馬車は前進しておらず、動きを止めている。
前方のカーテンの向こうの御者席から、何やら怯えた声と人の話し声が聞こえた。
何かあったに違いない。
ふと見てみると、ミシェルはまだ気がついていないようだったが、ダレンは目を覚まし、席から乗り出した体勢のジルに警戒の視線を送っている。
どうしたの?
眼だけでダレンに問うたが、分からないとダレンは首を振った。
このまま様子を窺うべきか。
だが、御者の怯えた声が聞こえたのは間違いない。
ジルは意を決すると、馬車の扉に手を掛けて勢いよく開いた。