Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
後方で起きた戦闘に、前方を固めていた男たちも気づいたようだ。
反撃を許すまいと御者たちを脅し、乱暴に馬車から引き摺り下ろす。
馬が驚き、怯え嘶く。
その勢いで馬車はまた揺れに襲われた。
「ジルっ!
大丈夫か?!」
揺れる馬車からダレンが身を乗り出す。
その声にジルは一瞬気を取られた。
見ると、ダレンに襲いかかる男の姿があるではないか。
咄嗟にダレンの方向に駆け寄ろうとしたが、ジルは男の湾曲刀に阻まれてしまった。
滑らかに攻撃を繰り出す湾曲刀は、ジルを足止めするのに充分だった。
ガキッ!
カキンッ!
受け太刀するダガーとぶつかり合い、耳障りな金属音を発する。
だが、武器での攻防はリーチの短いジルには明らかに不利だ。
そう判断すると、ジルは地を蹴り相手の懐に飛び込んだ。
体勢を低く、右半身から突っ込む。
突然の突進に少し怯んだ男は、難なくジルの侵入を許してくれた。
大振りになった相手の腕を弾き、身を翻して肘打ち。
体勢を崩したところで腕を抑えると同時に、右手に持ったダガーの柄を男の顎に命中させた。
「…ぐっ……」
男がよろける。
だが、男は一筋縄では倒れない。
体勢を崩しながらも湾曲刀をジルに向かって薙ぎ払う。
ジルはその攻撃を、身体を翻しながら逸らして避ける。
そのまま回転の勢いを利用して、後ろ回し蹴りを放った。
下から跳ね上げられたように男の身体が宙に浮き、手からは湾曲刀が滑り落ちた。